"喜劇!駅前林道"創作野郎
陸奥酔助:「猫みたいな女だった」 第八回
: 初出掲載誌:月刊七味八珍:第三号
女は偏屈で人嫌いで我儘で骨太で屈強で貧乏で、それに処女だった。
女はいつも口癖のように「貧乏は美徳よ」と胸を張って言っていた。
2人でたまたま鉄道旅行に出た時はいつも普通列車でなるべくキセル乗車を心掛けていた。
女はよく食べたが、いつも食欲が貧乏に負けていた。地方の田園を走る列車の中で女はおなかを鳴らした。ある時、向かいに座っていたオバさんがおにぎりを一個ずつくれ、「あんたも男ならしっかりしなさい、真面目に働いて養ってあげんと」と説教されたりした。
これ以上どうすればいしっかり働けるのかと思いつつ、働くのが大嫌いなもんだ、なんてついつい別の人生を演じたりしていた。
女と銭湯に行き、先に外に出て涼んでいると、番台のオバサンに「奥さん今出たよ」とか言われ、いつも夫婦扱いされていた。まるで「隅田川」の世界ですね、と間の抜けた感想をもらす奴までいた位、赤貧な若夫婦を演じていた。
金曜日に長い拘束がようやく解かれると新幹線に乗って女の所へ行った。女の部屋は女子寮みたいなものなので時間がくると玄関はロックされている。外から呼んでも無駄なので緑色の金網フェンスをよじ登り侵入した。ある時など警ら中の公僕に見付かり、女の何の部屋に逃げ込んだ。丁度付近一帯に変質者が出没していた時期だったのが不幸だった。出口の無い逃亡者を公僕はローラー作戦で確実に捕らえる参段だった。
ついにドアがノックされた。どうにでもなれと下着姿で布団に潜り込んで言い訳を考えていた。
女は部屋の玄関に出て少しだけドアを開き、「新聞の勧誘なら間に合っています」と一言怒鳴ってドアを閉めた。それっきりノックは無かった。
数週間後夜中に女の所に辿り着くと、金網のフェンスの高さが倍になっていた。
この無駄な工事の原因はきっと変質者のせいだ。
つづく
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