"喜劇!駅前林道"創作野郎



陸奥酔助:「猫みたいな女だった」 第六回 :   初出掲載誌:月刊七味八珍:第三号


   女は寝る前にいつも歯を磨いた。
 いくら止めろと言っても聞かなかった。
 狭い布団の中に歯磨粉の匂いが充満し、思わず吐きそうになった。女はそれを知ってから面白がって唇を近付けてくるので、必死になって逃げた。あまりにもしつこいので逃げながらパンティー1枚にしてやったが、女は気にせず、真剣に追いかける。寸前のところで不覚にも息を吸うと、やはりこみ上げてきた。思い切りのけ反った瞬間、頭のてっぺんかに激痛が走り、閃光が閃いた。箪笥の角に自爆してしまった。暗闇の中で女はあぐらをかいて「そんなに接吻が嫌いだったの」と言って大笑いしていた。

 女は下手なくせにやたらと飛ばした。後を走らせると同じペースでついてくるので、バックミラーを見ていなければならなかった。前を走らせると危ない走りをしているのがよくわかった。教えた通りのフル減速とフル加速を繰り返す。左でも右でも肩から突っ込み、無理矢理強引にねじ伏せて曲がっていく。美しく凶暴だったが公道の走りでは無かった。
 紙一重のところで立ち上がっていた。立ち上がりでリアを滑らせるようになったので、滑り始めたら急にアクセルを戻せと教えた。いくつめかのコーナーで言われたままアクセルを戻した女。マシンに背負い投げをくらって対抗車線に飛んで行った。あっさりと。公道でこんなハイサイドを目撃したのは初めてだった。ようやくヘルメットを外してやると、女は「バイクって面白い、馬に乗っているのと同じ」と勘違いしていた。女は中国に行く前に馬術部に所属していた。馬から落とされたり、蹴られたり、噛まれたりしていた。実際白い尻に大きな歯形があった。


                                                                                                                つづく

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