"喜劇!駅前林道"創作野郎



陸奥酔助:「猫みたいな女だった」 第四回 :   初出掲載誌:月刊七味八珍:第三号


   女も増して人が嫌いだった。
 「こんなに他人と同じ時間を一緒に過ごすなんて信じられない」
  それまでの曖昧で朦朧とした会話とは全然関係の無い事を突然、寒い冬の夜明け近くに呟くのだった。
 時には金曜日の夜から月曜日の朝まで同じ布団の中で過ごした。お互いが孤独だった。呟いたり、嘆いたり、口申(注:うめいたり。漢字コードなし)いたり。性欲とはまた違った別の感情に耐えられなくなると、女を抱き締め、大量の涙を女の胸にこぼしたが、そんな時決まって女は軽い吐息をたてて上機嫌で眠っていた。

 またもや呼び出し電話で指令が飛んできた。司令官はたった一言「男なんか信じられない」と言うと電話の向こうで、声を押し殺して泣いていた。
 夜中にカワサキを走らせる。シフトダウンの度にカーカーがバチバチ言っている。今度は面白そうだ。パンダが真っ赤になってスピーカーでガーガー唸っているが、直ぐにカーカーしか聞こえなくなる。その後は本当に何も聞こえなくなる。
 女の部屋に雪崩れ込む。しばらく何も聞こえない。女は暗闇の中でうずくまっていた。
 女は男を知らなかった。
 かねてから憧れていた先輩に誘われるまま、部屋に連れ込まれ、いきなり抱きつかれたと言う。
 もっと甘い雰囲気を期待していたのに、いきなりだからと、女は泣いていた。
 何がどうだと甘い雰囲気なのかとは思う。女は先輩を投げ倒して、その骨太の足を延髄に切り込んで部屋を出てきたという。威勢良く話しをしていたが、震えながら泣いている。この機に抱きついたが向こう脛を蹴られてしまった。こんなのを後頭部に喰らったらひとたまりも無いなと、不幸な先輩に同情する。少し小憎らしくなったので、平手で頬を一発張ると、本当に痛かったらしく、女は本格的に涙を溢し始めた。

                                                                                                                つづく

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