"喜劇!駅前林道"創作野郎



陸奥酔助:「猫みたいな女だった」 第ニ回 :   初出掲載誌:月刊七味八珍:第三号


   珍しく女から呼び出しの電話があった。
 予定外にその週末に女のところへ行った。
 部屋に入りいきなり押し倒したが、いつもと違って全然抵抗しないので、やっとその気になったのかと、フロントホックに手をかけたところ、後頭部だ。県立図書館で借りてきたと言う分厚い中国の古典全集の一冊の角で力任せに不意に強打されてしまった。女の大きな胸の上で朦朧としていた。ようやく顔を上げると女は膨れっ面をしながら涙を絨毯の上に滴らせていた。この時10年以上聞いてきた忌野清志郎の歌う「月光仮面が来ないのと あの娘が電話かけてきた・・・」の意味をようやく理解した。

   いい事ばかりは ありゃしない 作詞 忌野清志郎

   いい事ばかりは ありゃしない
   きのうは白バイにつかまった
   月光仮面が来ないのと
   あの娘が電話かけてきた
   金が欲しくて働いて 眠るだけ

   いい事ばかりで 笑ってりゃ
   ウラメ ウラメで 泣きっ面
   かわいそうに あの娘にも逢えないし
   手紙を書くような 柄じゃない
   金が欲しくて働いて 眠るだけ

   昔にくらべりゃ 金も入るし
   ちょっとはしあわせそうに 見えるのさ
   だけど 忘れたころに ヘマをして
   ついてないぜと 苦笑い
   金が欲しくて働いて 眠るだけ

   新宿駅のベンチでウトウト
   吉祥寺あたりで ゲロ吐いて
    すっかり 酔いも 醒めちまった
   涙ぐんでも はじまらねえ
   金が欲しくて働いて 眠るだけ

   最終電車で この町についた
   背中まるめて 帰り道
   何も変っちゃいない事に 気がついて
   坂の途中で 立ち止まる
   金が欲しくて働いて 眠るだけ

    いい事ばかりは ありゃしない
     きのうは白バイにつかまった
    月光仮面が来ないのと
    あの娘が電話かけてきた
    金が欲しくて働いて 眠るだけ


自信はあったが、そうだと言われると何も言えなかった。
大丈夫だ、もしそうだとしてもなんとかする、と平静を装いながら、カルカッタに逃げようか、
上海に潜もうかと真剣に迷っていた。


                                                                                                                つづく

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                     <写真と文は関係ありません>
  
  注)上記の「いい事ばかりは ありゃしない 作詞 忌野清志郎」の歌詞掲載は
    著作権上何らかの問題があるとは思います。
    このあたりも合法的にどうしていけばいいのか今後取り組んでいきます。
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