"喜劇!駅前林道"創作野郎



陸奥酔助:「猫みたいな女だった」 第一回 :   初出掲載誌:月刊七味八珍:第二号


   猫みたいな女だった。甘えたのくせに、孤独で寂しがりやのくせに、滅多に甘えようと
せず、いつもふらふらしていた。ごく稀にすり寄ってきて、こちらがその気になるともう
いない。昔は、わがままで愛想の悪い猫なんか大嫌いで、断然盲目的に犬の方が好きだっ
た。けれど今は猫の良さもわかるようになった。猫みたいな女と付き合ったからかもしれない。

 その頃は絶望工場帰りとはいえ、窮屈で下らない日常に辟易していた。耐えきれなくなって、
夜中にカワサキを走らせた。その頃は2人してブラジルへ渡るつもりだった。女は人の話を
聞くどころか、ホホホと笑ってケロリとしている。
 挙句には
「黙っていたけど、明日からネパールに行くの。きっと帰ってきたらバイクのバッテリーが
上がっているから、その時はよろしく」
 と、魂はカトマンズにあった。

 風呂で一緒になるホセにブラジルの事を色々と聞いた。300万円でプール付きの豪邸に
住めるという。春はまだ遠く、どしゃ降りの中で凍え、スリップダウンに怯え、よろよろと
カワサキを走らせていた。プールだ、ブラジルだと言う前に、ネパールに行く金も無いどころか、
次のガスチャージでハイオクを入れる金すら無い事に気付いた。


                                                                                                                つづく

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